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出産と産後数時間

マジックアワー

生まれたばかりの赤ちゃんと過ごす最初の1時間は、今まで経験したことのない特別な時間になるでしょう。スクロールしてもっと読む

また、母乳育児を始める良いタイミングでもあります。赤ちゃんがこの最初の60分間におっぱいに吸いつくと、お母さまの身体の中で連鎖反応が起こり、赤ちゃんへの授乳を開始し、赤ちゃんを守り始めることができます。


妊娠期間中に、乳房はすでに赤ちゃんに授乳するための準備を完了させ、授乳を待っている状態でしたが、妊娠ホルモンであるプロゲステロンが、母乳を作るプロラクチンホルモンの働きを阻止していました。胎盤が排出される(後産)と、プロゲステロンのレベルは落ち始めます。この低下には数日かかりますが、これが出産当日には大量の母乳がすぐには出ない理由です。


母乳の分泌を開始するためには、産後数時間で、赤ちゃんに乳房をくわえてもらい、リズミカルに吸ってもらって、乳房内の細胞にスイッチを入れることが必要です。


カンガルーケア(お母さまの胸の上で裸の赤ちゃんを抱き、直接肌と肌を触れ合わせること)は、もう一つのホルモンであるオキシトシンの分泌を促します。このホルモンは、母乳分泌の開始を助け、また少量分泌される初乳(初期の母乳)を赤ちゃんに届けられるようにします。³³ 産後の最初の1時間、お母さまと赤ちゃんのオキシトシンのレベルは驚くほど高く、その扉はすぐに閉まってしまいます。 


まるでオキシトシンの役割は、母乳の分泌だけではないようです。専門家たちは、まもなく始まる授乳のためにオキシトシンが脳に刺激を与えると信じています。肌と肌が触れ合っているとき、お母さまと赤ちゃんは穏やかな気持ちになり、赤ちゃんはあまり泣かなくなり、お母さまも痛みを感じにくくなります。二人のコルチゾール(ストレス)レベルも下がります。³⁴ オキシトシンと初乳については、本章で後ほど詳しくご説明します。


出産が予定どおりにいかず、緊急帝王切開または他の予定外の処置があった場合でも、最初の1時間は赤ちゃんを吸いつかせ、できるだけ肌と肌を触れ合わすことが重要です。難しい場合は、代わりにお母さまのパートナーが赤ちゃんと肌を触れ合わすこともできます。


赤ちゃんが新生児集中治療室(NICU)に入ることになった場合でも、母乳を分泌させるトリガーとなる感覚を再現することができます。赤ちゃんのすることを再現して、赤ちゃんになりきりましょう。乳房と乳首を手で刺激し、さく乳器で乳房に圧をかけ、初乳を採取し赤ちゃんに与えられるようにしましょう。³⁵ 早産児にとってこのことが特に重要である理由については第3章をご参照ください。

ブレストクロール: 乳房を目指して這う動き

そうです。生まれたばかりの赤ちゃんも這うことができるのです。次に這うことができるのは、半年ほど経ってからです。


正確に言うと、赤ちゃんは乳首に到達して吸いつくために、腕と脚を使いながらお母さまの身体を横切ってじりじり進む本能を持っています。³⁶


科学者たちは、乳輪(乳首周りの暗い色の皮膚)にある小さな凹凸であるモントゴメリー腺から分泌される皮脂の匂いに赤ちゃんが引きつけられていると考えています。³⁷ 生まれてからできだけ早く母乳を飲めるよう、赤ちゃんにはこの驚くべきサバイバル能力が備わっていると考えられています。

世界中のすべての母親が世界保健機関(WHO)の指導に従えば、毎年800,000人以上の子どもの命を救うことができ、20,000人の乳がんによる死者を防ぐことができます。³⁸ その指導では、最初の6か月間は母乳だけを与え、子供が2歳以上になるまでは固形食と共に母乳を与え続けることが推奨されています。³⁹