素晴らしい哺乳類

哺乳類とみなされる最初の種は、恐竜の時代よりも前の約31,000万年前に生きていました。

この種は卵を産んでいましたが、孵化したばかりの赤ちゃんにはミルクを与えていました。しかし、これらの動物には乳房がなく、 ミルクは乳首のない管を通じて皮膚からにじみ出ていました。また、このミルクの主な目的は食べ物としてではなく、おそらく新生児の免疫系を守るためでした。²³

何千年もかけて、この管は今ではほぼすべての哺乳類が持っている乳腺という複雑なシステムに進化しました。例外は、オーストラリアとニューギニアに生息する少数グループの5種の単孔類(卵生の哺乳類)で、これにはカモノハシとハリモグラが含まれ、今でも皮膚から母乳を分泌します。

あらゆる種の母乳はその子どものニーズと発達にぴったり合わせて作られています。例えば、カモノハシの孵化した子どもは母親の下腹部から出る母乳を舐めるため、母乳には皮膚表面の病原菌から守るための独自の抗菌タンパク質が含まれています。²⁴

北大西洋の不安定な流氷の上で出産するズキンアザラシは、わずか4日間しか授乳しません。その母乳の61パーセントは脂肪分であるため、自然界で最もエネルギー豊富な母乳です。これにより、ホッキョクグマから逃げようと冷たい水の中に入る前に、子アザラシが皮下脂肪の層を構築できるようになります。²⁵

一方、オランウータンは、なんと8年間も授乳します。これは哺乳類の中で最長の授乳期間です。近年、科学者たちはオランウータンの授乳パターンが周期的で、食べる果物が不足しているときは子どもが母乳摂取量を増やしていることを発見しました。²⁶

しかし、ヒトの脳は次に賢い動物の脳よりもはるかに複雑であるため、ヒトの母乳も一層複雑です。²⁷

また、これがすべてではありません。ヒトの赤ちゃんは他の多くの哺乳類よりも生まれた時点で非常に無力で未熟です。子牛や子羊のように立ち上がったり歩いたりすることはできず、子犬や子猫のように数か月という短い時間で自立して生きていくこともありません。事実、赤ちゃんは今後何年間も引き続きお母さまの愛情、ケア、保護を必要とします。

他の哺乳類は大人に近い大きさと複雑さを備えた脳を持って生まれてきます。進化において近い親戚であるチンパンジーでさえ、生まれたときの脳は大人のサイズの40パーセント以上あります。²⁸ ヒトの新生児の脳は大人のサイズの30パーセントもありません。科学者たちは、ヒトの赤ちゃんの脳をチンパンジーの赤ちゃんの脳と同じくらい発達させるためには、女性が18~21か月間妊娠する必要があると推測します。²⁹ しかし、幼児の頭が女性の産道を通るには大きくなりすぎます。これがおそらくヒトの赤ちゃんが比較的未熟な脳で生まれてくる理由です。 

これらは母乳とどのような関係があるのでしょう? そうですね、これがヒトの母乳の成分や性質が他の動物の母乳とは異なる理由です。母乳は赤ちゃんの成長を促進するだけでなく、大部分が子宮の外で進む脳の発達にとっても必要不可欠です。こういうわけで、赤ちゃんの人生の最初の3か月間は時に、子宮での発達を補う期間、とも考えられます。母乳がどのように赤ちゃんの脳の構築を助けるのか、詳細は第6章をご参照ください。

知っていましたか?

母乳には幹細胞が含まれています

幹細胞は自己複製と様々な種類の組織への発達の両方ができるすごい細胞です。母乳に含まれるこの細胞の機能とメリットの可能性については、いまだ完全には解明されておらず、科学者たちは現在もその解明に取り組んでいます。しかし、研究では、これらが赤ちゃんの骨、脂肪組織、肝臓と脳に移動し、何らかの防御をしているかもしれないことが示唆されています。³⁰

このような幹細胞は、他の領域でも驚くべき可能性を秘めています。科学者たちは、胚性幹細胞の使用に関する倫理問題を回避しつつ、それをがんの治療、もしくは損傷または疾患のある臓器の修復および再生に使用できるかどうかを研究しているところです。³¹

母乳の謎

乳管と乳腺葉の内壁となる膨大な数の細胞も母乳に流れています。

なぜでしょうか?現時点では分かっていません。分かっていることは、防御機能を持つ免疫細胞もこれらと共に母乳に入っていくということです。³²

リマインダー

バースプランの中に、母乳育児を加えましょう。出産が希望どおりにスムーズにいかなくても、できれば、産後の赤ちゃんとの肌と肌の触れ合い(カンガルーケア)を確実に行えるように、母乳育児の良いスタートが切れるように、医療従事者ができることはすべてしてほしいということをはっきりと伝えておきましょう。肌と肌の触れ合いがなぜ大切かについては、第2章をご参照ください



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